会計パッケージソフトのビジネスモデルと技術動向

「会計ソフトメーカーのビジネスモデルのひとつにパートナー戦略があります。

登場するパートナーの戦略を理解することにより、会計ソフトの導入に必要な業務マップを描くことができます。 また、技術動向を知ることはシステムを稼働させる環境の選定や、連携する周辺システムを構築するための指針となります。

はじめに

タイトルは「会計パッケージソフト」ですが、会計ソフトメーカーが提供するパッケージソフト全般のお話です。  

会計パッケージソフトの分類

今回は、会計ソフトメーカーのビジネスモデルの中から、パートナー戦略と、クラウドやデータ連携の技術動向を中心にご説明します。パッケージの導入にあたり、実際に登場するパートナー企業の役割や、システム連携のための技術概要を理解することは重要です。

  1. パッケージソフト概要
  2. パートナー戦略
  3. クラウド構成
  4. データ連携
  5. サービスあれこれ

1.パッケージソフト概要

個人向け、中小企業向けのシステムから、大手企業をカバーするエンタープライズシステムまで多くのメーカーが基幹業務向けのソフトウェアを提供しています。今回のお話は、中小企業から中堅企業をカバーする、独立系のパッケージソフトと、一部会計事務所向け会計ソフトが中心となります。

会計の独立系パッケージソフト

会計ソフトの系統

「会計パッケージソフト」の歴史に少しふれておきます。1980年代からの業務系プラットホームの変遷です。OSがMS-DOS から Windowsへ、ネットワークがNetWareなどのオンプレミスネットワークから IPを利用したInternetへと移り変わってきました。この流れに対応しながら、独立系会計ソフトメーカーや、Internet系の会計ソフトメーカーが製品を提供しています。

会計ソフトの系統

会計パッケージソフト黎明期の主なメーカー

1980年代、国内は NECの PC-9800 シリーズのパソコンが主流でした。当時 NEC が発行していた PC9800シリーズ ソフトウェア一覧には、会計をはじめとする業務ソフトが100近く登録されていました。その中で、現在も継続している会計ソフトメーカーがいくつかあります。現在では、これらのメーカーに加えてインターネット系の会計ソフトも多数リリースされており、選択肢が増えています。

会計パッケージソフト黎明期の主なメーカー

 

取引の会計データ化ポリシーの変化

会計パッケージソフトが目指すシステム化の方向性も時代ともに変化してきました。会計ソフトが広まる以前は手書きによる経理業務が行われていたのですが、手書きによる処理をコンピューターで実行させる 「OA化」の流れができてきます。その後、業務データの流れをプログラム間のデータのやり取りに置き換えて、システム間で「データを連携」することにより人的な介入を減らす方向に変化してきます。

最近では、サービス自体の連携によりサービス間で会計データをあたかも自動で生成するような「サービス連携」になってきました。

取引の会計データ化ポリシーの変化

 

取引の会計データ化ポリシーの変化

 

2.パートナー戦略

会計ソフトメーカーにはいくつかの各種の戦略とビジネスモデルがあります。ここでは、販売拡大のためのパートナー戦略を説明します。収益の確保と拡大のために、販売施策、バージョンアップや保守、ソフトウェアだけでなく、教育や物販など様々なビジネスモデルを構築しています。

パートナー戦略

会計ソフトメーカーの「パートナー戦略」の概要です。ここでは「販売」「ユースウェア」「ソリューション」「SI」「アライアンス」について説明します。

パートナー戦略

パートナー制度の背景

パートナー戦略の背景として、会計ソフトメーカーの収益分布を確認しておきます。PCA社の売り上げ構成比です。2020年にはクラウドの売り上げが 1/4 まで増えてきています。この売り上げのほとんどを、販売パートナー(販売店)経由で達成しています。

パートナー制度の背景

パートナー戦略

売上のほとんどを構成する販売パートナー(販売店)です。以前はクラウドの売り上げが販売店の営業担当者の実績にならず、クラウドの取り扱いを控えていた大手販売店もありました。会計ソフトメーカーはクラウドの売り上げが営業担当者の成績として採用されるように1年間のプリペイドなどの商品を作成し、仕切りで流通する仕組みなどを構築します。しかし、任意のタイミングで契約内容を変更できるクラウドのメリットが損なわれますので、お客様へのメリットを出しづらい商品構成となっていました。

最近ではクラウドの取り扱いが浸透し、大きな商流となっています。

パートナー戦略ー販売店

パートナー戦略ーソリューション

会計パッケージソフトで言うソリューションとは、パッケージソフトと連携して動作する社外のソフトウェア製品を指します。会計、給与、販売管理などの基幹業務の機能を補完する製品です。これらの製品を製造するメーカーは、会計ソフトメーカーの販路を利用して製品を拡販することができます。どのような製品の取り扱いがあるか、会計ソフトメーカーが作成する「ソリューションマップ」を確認してお客様のニーズに合う製品を提案することができます。

パッケージ戦略ーソリューション

ソリューションマップ例

ソリューションマップ例

パートナー戦略ーユースウェア

パッケージソフトの使い方を説明したり、データコンバートなどの役務を提供するパートナーです。販売店がお客様への提案を行う際に、ソフトウェアやハードウェアと同時に導入教育をセットで提案することが通例となっています。ユースウェア事業者は会計ソフトメーカーが開催する講習を受講して認定を受けることによりオフィシャルなパートナーに認定されます。

会計ソフトメーカーはこういった会社を組織化し、全国に展開する「ユースウェア網」を構築しています。

パートナー戦略ーユースウェア

パートナー戦略ーSystems Integration

会計パッケージソフトは機能そのものをカスタマイズすることはできません。しかし、すでに導入されているシステムと会計ソフトを連携する場合など、システムインテグレーションを行うこともあります。この時、SI事業者は会計ソフトメーカーのが提供するAPI(Application Programing Interface)や、テキスト連携機能を利用したシステム連携を行います。

会計ソフトメーカーはこういったSI事業者向けにAPIの仕様書などのドキュメントや技術サポート体制の充実を図っています。

パートナー戦略ーSystems Integration

パートナー戦略ーアライアンス

直接には製品の相互流通は行いませんが、お互いの製品を拡販するための協業パートナーです。アライアンスの下で、製品間の連携システムの作成や、プラットホーム関連の動作確認、技術者の交流や共同マーケティングなどを推進します。

パートナー戦略ーアライアンス

3.クラウド構成

現在、会計パッケージソフトもクラウドでの提供が進んでいます。主なクラウド構成を知ることにより、お客様に最適なクラウド環境で会計パッケージソフトを提案します。

クラウドあれこれーIaaS型

クラウド上の仮想サーバーで動作する形式のサービスです。お客様ごとに仮想サーバーを構築しますので、会計パッケージソフト以外にも、各種ソリューション製品や独自に開発した業務システムもインストールすることができます。

クラウドあれこれーIaaS型

クラウドあれこれーSaaS型

クラウド会計システムの多くが採用するSaaS型のクラウドです。Freee や MFクラウドなど、多くの会計ソフトがこのSaaS型で提供されています。ブラウザで動作するためクライアントのOSを選べません。また、APIや銀行サービスなどとの連携も充実しています。

クラウドあれこれーSAAS型

クラウドあれこれーDaaS型

スマホのアプリなどで採用するクライアントプログラム形式のクラウドです。クラウドサーバー上で業務データを管理し、クライアントに専用のアプリケーションをインストールして利用します。Windows対応の会計パッケージソフトなど、今までオンプレミスで利用していた環境と同じ構成で利用できます。ただし、クラウドサーバー上に任意の業務システムをインストールして使うことはできません。

クラウドあれこれーDaaS型

4.データ連携

会計パッケージソフトと周辺システムを連携するための技術に関するお話です。

自社製品間のデータ連携

会計ソフトメーカーが提供する各種パッケージソフトは、同一メーカーであれば相互に連携して利用できるようになっています。自社製品間の連携は専用の連携プログラムで実現されています。

自社製品間のデータ連動

社外製品とのデータ連携

会計パッケージソフトと他社、あるいは独自システムとの連携にはいくつかの方法があります。
①製品相互をメーカー間でのアライアンスで接続をする
②会計ソフトメーカーが提供する CSV連携機能を利用、あるいは APIを利用して連携プログラム作る

などです。

社外製品とのデータ連携

業務データの連携

データ連携には、従来型のクライアントベースの連携と、Web-APIによるサービス連携があります。クライアントベースの連携プログラムではプログラムを実行するためにハブとなるサーバーやパソコンなどのデバイスが必要になります。対して、Web-API を利用したサービスの連携では追加のデバイスが必要なくなり、クラウド環境に閉じたシステム利用ができるようになります。

業務データの連携

Web-API連携例

サービス連携の一例です。サイボウズ社が提供する Kintone を中心にして、販売管理ソフトと伝票発行サービスをクラウドサービス連携で実現した例です。

Web-API連携例

 

5.サービスあれこれ

会計ソフトメーカーが提供する新しいサービスに少しふれておきます。

サービスあれこれーサブスクリプション

会計パッケージソフトも「サブスク」の時代に入ってきました。たとえば、PCA社では月額29,700円からのサブスクリプションを提供しています。会計、給与をはじめ各種業務のパッケージソフトが使い放題になります。

サービスあれこれーサブスクリプション

フリーウェイジャパン

フリーウェイジャパンが提供する、お客様が無料で会計ソフトを使えるサービスです。過去には会計事務所が顧問先に会計ソフトを勧めていた時代もありました。しかし、最近では顧問先が使っている会計ソフトに会計事務所が対応するようになりました。顧問先のお客様に会計ソフトを無料で広めることにより会計事務所を顧客として取り込むという戦略です。

サービスあれこれーっフリーウェイジャパン


まとめ

最後に、お客様へのパッケージソフトの適用についてまとめておきます。まず、財務会計や給与計算、税務関連の業務には将来の税法の改正などを見越してパッケージソフトを使うべきです。販売管理についてはお客様の要件を十分に確認して適用を検討します。販売管理パッケージソフトは、主に小売業を想定したつくりになっており、場合によってはアドオンを含むカスタマイズに多くのコストがかかる可能性があります。生産管理は TPiCS や R-PiCS といった専用のパッケージを選択するか大規模向けERPの適用を検討してください。

パッケージソフトの適用について

講師:黒川 明宣(ITコーディネータ)>>